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ステップアップのまちづくり

  東大利地区の整備を終えて 岡本 政生 東大利スクエアタウン1

東大利スクエアタウン2

 
 この事業は、寝屋川市が初めて取り組んだ面的整備としての木造賃貸住宅建替事業である。
 この地区の家主への聞き取り調査がきっかけで、家主有志が市へ建替相談に来られ、公団(現都市基盤整備公団)に協力要請を行い、地家主、市、公団の3者で家主協議会を結成し、建替の検討を行うこととした。
 協議会では、地区全体を一挙に建替え高層住宅を建設する方法等検討が行われ、周辺が低層住宅街であり、家主が同時にまとまるのは困難である等の判断により、できるだけ家主の意向に沿ってまとまったところから事業を進めていく、小ゾーン単位の積み重ねによる事業とした。
 その中で現況道路を出来るだけ生かし、建替計画に配慮した道路や地区の中央に位置する公園等の公共施設計画、公団建替ゾーンと民間建替ゾーンとに分けた整備計画を定めるとともに家主、公団、市の役割分担等を決め、昭和61年に全国で初めて「東大利地区木造賃貸住宅密集地区整備事業」として建設大臣の承認を受けて、国や大阪府の指導援助の下に事業を着手した。


(売却意向の家主)
・公団建替ゾーンは、公団が買収し賃貸住宅の建設を行う。
・民間建替ゾーンは、隣地建替家主が出来るだけ買って建替をする。
・道路、公園等の公共施設は、市が買収し整備をする。

(建替意向の家主)
・共同建替等の建替をする。
 この方針で家主等の権利調整を行い事業を進めた。事業を振り返って見ると幾つかのターニングポイントがあった。始めのポイントは、事業のスタートを切れるかどうかのポイントである。


 

1 事業化へのスタート

■東大利地区・まちづくりの経過(ステップアップ)
ステップアップグラフ
 まず公団ゾーンの整備から始めることとし、8名の土地所有権利者同日付けの買収契約が公団としての参画条件となり、市は道路用地、公団はその残地(建築敷地)を買収する。市と公団職員が共同で買収交渉を行う。借家人対策は、家主が責任を持ち、従前居住者の公的住宅への入居斡旋は市が行うこととした。4名の借地人との借地権割合交渉等、紆余曲折はあったが、何とか了解を得ることができた。しかし1家主だけがどうしてもそのままにしておきたいとの事であったが、粘り強い説得で、道路用地として市が買収した面積分を公団が隣接地買収用地を代替地として家主に売ること、建替は公団民賃制度を活用すること等、公団と民間との共同建替を行うことで話が出来た。ここで初めて建設省と協議を行い2重壁方式(寝屋川方式→敷地境界線上に2枚の壁を作り、自分の敷地に自分の貸家を建てる。)の共同建替が認められ実現する事になった。その次のポイントは、工事用進入路問題であった。



2 工事用車両進入路問題
 進入路は、幅員3メートル位の商店街だけしかなく、始めは解体工事進入路問題から始まり各工事毎に地元と話し合いをすることになる。地元の話し合いは、商店街閉店後の夜10時から始まり午前1時2時になるのはざらで、何度となく行い大変な話し合いになった。このことがきっかけで、区域を拡大し商店街から公道まで道路整備をする等いろんな条件の下で話し合いがついた。工事としては、2t車位しか通れない、解体工事は殆どが手ごわし工事により行った。おまけに商店街を通る大変な工事になった。
 第1期の公団ゾーンでは、出来るだけ商店街を通る車を少なくするため、建築工事の際、別に基地を設け、コンクリートを約300メートル圧送することにより工事を行った。

(1) 新たな工事用進入路の実現
 この地区はブロック塀で囲まれ、周辺から隔離されている地区であった。地区内道路と周辺道路と接続するためブロック塀所有者の理解の下に、その撤去について周辺住民との話し合を行った。周辺道路整備等も行う条件の下で道路を接続することにより、工事用進入路としても使用するということで、なんとか理解を得ることができた。このことにより商店街以外に工事用進入路を確保することができ、民間建替ゾーン等の工事促進につながった。その次のポイントは、民間建替事業である。



3 民間家主による建替事業
 平成2年に(財)大阪府まちづくり推進機構が設立され、機構の職員、市職員、コンサルタントと一緒に家主建替協議を進めていくこととした。また機構からの提案による超スーパー特賃(当初5年間1%の融資制度→特賃制度+大阪府の利子補給)制度ができ、それを活用し家主協議を進めることとした。
 始めの民間建替事業として民間1次ゾーンを3人の共同建替として進めることとし、隣同志の家主と言っても市外家主で見ず知らずで、共同建替の事例が殆どないなかで初対面の3人の家主をどうまとめるかであった。建築計画に合わせて土地の交換を行う2重壁方式の共同建替を計画し、2人の家主は何とかまとまったが残る一人の家主の決断を得るまでに時間を要したが、事業協定の締結を行うことができた。業者選定でもなかなか意見がまとまらなく、何社か見積もりを取り、最終的には残った2社のジョイントベンチャーで何とか決着がついた。後にも先にも3人でお会い頂いたのは、この1回限りである。
 ここでのポイントは、思惑の違う3人の家主をどんなタイミングで何時会っていただくかであった。建替計画等がまとまり、後は業者選定の段階で会っていただくこととした。
 事業を振り返ってみて、第1次ゾーンが実現したことが、本事業の大きなポイントであった。他の建替のモデルとなり事業の推進力となったことは勿論であるが、また他地区の共同建替事業でも、家主が現地へ何度も足を運ぶ等建替事業のモデルとなっている。

(1) 公園用地を利用した建替事業
 公園の用地買収を同時に進めていたが、買収が終わっても整備を遅らせ、建替工事のための資材置場、駐車場、現場事務所等に使用することにより、工事がスムーズに行くよう周辺に配慮した。

(2) 景観形成の実現
 この地区は全て3階建で、道路から1メートル以上後退して建築をする。外壁の色彩を合わす等実現することが出来た。
 これは、家主が話し合いを行い、景観にも配慮した建替をするため、建築設計は同じ設計者で行うと意見がまとまったので実現したものである。



おわりに
 この事業が、よく完成する事が出来たと思っている。権利関係は、小権利者が多くおまけに輻輳しているため、権利者調整が大変である。ブロック塀で囲まれた地区で、道路は狭く、建物は老朽化し空き家が多いなど環境が劣悪であったため、事業前の状況をご存じの方は、「本当に事業が出来ると思わなかった。」と言っておられた。こういったこともあって、関係者の方々の事業への理解が非常に低かった。民間の1次ゾーンの完成当たりから、建設省等からの再三の視察など対外的に注目されるようになり、関係者の方々の理解も得るようになってきた。ほんとに孤独に事業を取り組んでいる感覚であった。市担当職員の頑張りは勿論のことであるが、コンサルタントの方々の頑張りがあった。家主の建替協議に始まり完成後の入居者募集まで、いまだにメンテナンスまで相談に乗っていただいている。こういったことが家主の信頼を得、他の建替事業にもつながっていると考える。市、機構、コンサルタント各々役割分担の下に、良いチームワークで完成まで取り組めたと考えている。事業をされた家主さんを始め事業関係者等協力頂いた方々に感謝しています。

(寝屋川市 萱島整備課課長)




  東大利地区にみる
積み重ね型事業推進のポイント
 中西 義和
 
 
東大利地区ポイント  ほぼ木賃のみで集積していた0.7haの区域を対象に、公共施設整備と建替え事業の積み重ねを、家主協議会結成後約18年、木造賃貸住宅密集地区整備事業整備計画大臣承認後約14年の歳月をかけて行われている。一挙に対象区域をスクラップ&ビルドで行う事業と異なり、十数年の時間をかけての積み重ねによる整備が成立した条件を振り返えると、大きくは次の4点に整理できる。 

1 地区整備計画の存在
・地権者意向を踏まえた上での公共施設・建替えゾーン配置による実現性のある地区整備計画が作成されたこと(特に段階整備を可能とする公共施設配置のリアリティ)



2 公団ゾーンの先行整備
・売却意向の土地を公団が取得して整備することにより、地区整備のスタートがきれた事。また公団ゾーンにおいて、公団賃貸住宅と建替え意向家主(公団民賃制度)との共同建替え(2重壁方式の先達)がこの段階でなされ、続く民間建替えゾーンでの共同建替えへのモデルを提供したこと。



3 家主の建替え収益の確保と資産感への工夫
(1)共同化等誘導への超低利融資の制度化
・大阪府特賃密集地区共同建替え分(当初5年1%金利)

(2)共同化等形態の多様化
・建替え促進補助金と超低利融資をセットにして、かつ財産の個別性を持たせた、共同化等形態の工夫 ・2重壁方式共同化(第1. 2次ゾーン)
・道路を挟んだ第2次との協調建替え(第4次ゾーン)
・隣接敷地協調建替え同時着工(第3次ゾーン)

(3)融資制度選択肢の多様化
(地家主特性にあった融資制度の提案)
・通常はより低利な融資制度(特賃)を選択すると考えがちであるが、地家主(被相続人)の年齢による相続対策の程度、経営の安定上必要な場合に繰上償還できるか否か等の要因から、第4次ゾーン地家主は民賃を選択。
イ.繰上償還(民賃:一部償還可。特賃:一括償還のみ)
ロ.返済期間(民賃:35年。特賃:25年)
ハ.資金調達(民賃:全額。特賃:市中銀行借入あり)
ニ.公団の建設譲渡に対する安心感



4 景観形成条件
・民間建替えが段階的に行われることから、「景観形成ガイドライン」を作成している。建築協定の検討もなされたが、地家主協議を通じてガイドラインに止めている。なお建替え協議の中でガイドラインに基づく計画説明を行い、かつ民間建替えゾーンの全てについて地家主の理解を得て、1設計事務所による設計が可能となり実質的に景観形成の担保がなされたと言える。


(株式会社都市計画事務所ラウス代表)



2重壁方式共同建替えによる有利性(例:第2次ゾーン)
建替え有利性表
※1.土地も建物も個別登記 2.融資の扱い(1申請:融資実行個別) 3.建築確認上の扱い(1棟)




  東大利スクエアタウンの
建築計画とデザイン
 井上 守
事例1
RAPPORT(2次ゾーン)全景

事例1
シティコート(公団)とアベリア公園

事例1
REFRE(1次ゾーン)2重壁方式部分

事例1
協調建替によるCOURT(3次ゾーン)

事例1
RIZ NEYAGAWA(4次ゾーン)
 
1 「街並みデザイン」としての建築デザイン
 「小ゾ−ン単位の段階的整備」を特徴とする事業であるため、整備時期のずれ・異なる設計者の参画等が想定される。その背景の中でも、一定程度の街並み景観形成が確保できる様に、当地区に於ける「景観形成ガイドライン」が策定された。ガイドラインの概要は以下の通りである。

(1)道路との境界部の扱い
・街路側は1mの壁面後退とし、歩道・緑化等を設けることで街路と建築が一体となった街並みデザインとする。
・同様の趣旨で、駐車場床仕上の一部を歩道と同じとし、駐車スペ−スの間に植樹を行う。

(2)建物の表情・シルエット
・陸屋根と勾配屋根のミックスによる適度な変化のあるスカイラインとする。
・廊下、バルコニ−、外壁のミックス、3層構成による適度な変化、 ヒュ−マンスケ−ルの街並みデザインとする。

(3)共同建替のデザイン表現
・2重壁方式部分(敷地境界部)に切妻屋根を設け、建物の一体性と共同建替の象徴性をもたせる。
・2重壁方式部分(敷地境界部)の街路側は塀等で仕切らず相互の屋外空間の連担効果を活用する。



2 共同建替のル−ル
 2重壁方式による共同建替建築物は建築基準法上1棟であるため、一人の地主が駐車場を多く設けたりするとそこで余ってきた容積を他の地主部分で使用できることとなる。(容積移転)
 しかし、容積移転を行うと地主相互に不公平感を生じることにもなるので、本計画ではこういった開発規模等に係わる内容については所有単位で完結する形式を前提としている。それ以外にも建設工事費等の按分の仕方、アパ−トの管理方式等共同建替ならではのル−ル作りが必要であった。



3 街・建物のネ−ミング
 区域中央部に確保された公園は、全面がペ−ブされた「広場」:スクエアとして整備されている。この公園廻りに再生した街の意味を込めて、整備区域全体名称「東大利スクエアタウン」が定められ、一般市民にも定着した街の愛称となっている。再整備された建物名称は、中庭をモチ−フにした公団建替ゾ−ンの「シティコ−ト」に続き、民間建替ゾ−ンの初陣を切った1次ゾ−ンが再整備をモチ−フとした「リフレ」、以下「ラポ−ル」「リッツ」といづれも「再生」をイメ−ジさせるRの頭文字が冠せられている。
 最終整備となった3次ゾ−ンが再度中庭モチ−フの「コ−ト」を含むネ−ミングとされ、10数年にわたる街づくりの経過が建物ネ−ミングの中に込められている。

(有限会社井上守建築事務所代表)


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