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  まちの匂い
大阪大学名誉教授 帝塚山大学教授 紙野桂人
 
ウィンダミアのマナーハウス
アレッツオ(イタリア)の町の広場

周荘(中国)の町・ゴマ油の香り
周荘(中国)の町・ゴマ油の香り
世界のまちは、その所に応じて匂いを持っている。それが何によるのかということは、簡単には言えないが、私の経験では日常の家庭料理と強く結びついている場合が多い。うまそうな匂いの効果を利用して人を集めようとする商法は、昔からうなぎ屋や焼き鳥屋の例で誰でも良く知っている。しかしここで取り上げるのは、そういう売らんかなの話ではなくて、まちのどこにいても感じられる「まちの匂い」と言うべきものである。例えば東南アジアに行ってまちに入ったとすると、まず独得の魚醤(ニユクマム)から来る匂いを嗅ぐことになる。しかしそればかりではなくて、ある地域では、ココナツ油の香りが強くて、他の香料の匂いも負けてしまう。魚醤とココナツは東南アジアの食を支配している。それがまちと結びつく。
 韓国ではニンニクの香りとキムチなどに使う一種の魚醤の香りが入り混じった独得のまちの匂いに出会う。一方中国では、料理の食材は豊富だがまちを支配しているのはゴマ油の匂いである。もちろん韓国でもゴマ油は使う。しかしそれはニンニクとキムチには勝てない。中国は広大な多民族国家だから所に応じてまちの匂いは変る。例えば東北地方や山東省の一部では韓国のまちと同じ匂いに出会う。新疆(シンキョウ)自治区ではオリーブ油の香りが強くなる。チベットの方には足を踏み入れていないので私は知らない。だいたいゴマ油の匂いは黄海沿岸域に広く分布している。かつては日本列島もその一端にあったが今は違っている。
 ヨーロッパでは、まず地中海沿岸域のオリーブ油の香りがひとつである。ギリシャそしてイタリアの各地の町や村に一歩入れば、町並みのたたずまいと同時にこの匂いが感性に働きかけて来る。オリーブ油の匂い抜きの地中海沿岸都市は考えられないだろう。イタリアではパルムザンやゴルゴンゾーラなどのチーズの香りも無視出来ない。それが地域の個性をつくる。
 フランスでは内陸に入るほどバターの香りがまちの匂いになって来る。それにニンニクの香ばしい匂いが加わる。エスカルゴ料理を思い起こしてもらえば良いだろう。
 ドイツ連邦ではあまり匂いに特徴を感じない。焼いたブルストの香りぐらいか。そして英国のまちにはほとんど匂いがない。英国の香りはティーカップとともに室内から外へ出ないらしい。ロシアについては私は知らない。
 アジアでまちの匂いが消えたのは日本である。私が日本人だから慣れて感じなくなったというのとは違う。全てに匂いが薄いのだ。まちから本当の料理が消えたのかもしれない。
 まちの匂いはある方が良いのか、無い方が良いのか、そんなことをあれこれ考えるのも、都市のアメニティを楽しむ機会にはなるだろう。

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