動き出したまちづくりNPO まちづくり人
まちづくりの初動期をサポートするNPOの活動に、今、期待が集まっています。当センターの初動期活動サポート事業で昨年度採択を受けた三組織の方にお集まりいただき、設立のきっかけから活動までのお話をうかがいます。
 最近、NPOという言葉をよく耳にしますが、どのような活動をして、どんな役割を担っているのでしょうか?NPOとは、Non Profit Organizationの略で、一般的には民間非営利組織といい、「利益追求をせず、それぞれの使命実現のために活動する組織」ということで利益が出ても構成員で分配しないで、全額を次年度以降の事業資金に投資して活動を行っていく組織を言います。広義のNPOは、ボランティアや市民活動団体なども含みますが、ボランティアグループと大きく違う点は、有償で働く専従スタッフがいるという点です。そして、NPOの一部が、NPO法に基づく特定非営利活動法人となっています。
 NPOは、新たな市民セクターとして、行政や企業にはない特性や、専門性を生かしながら様々な社会的課題の解決に取り組んでおり、これからの成熟した市民社会において重要な役割を果たすものと思われます。
 まちづくりの分野においても、専門的知識を持たない地域住民が、まちづくりを進めていく上での多くの困難を解決していくために、行政や企業ではなくNPOだからこそできることは多いと思われ、その活躍に期待が寄せられています。
 わが国におけるNPOの歴史はまだまだ浅く、国や大阪府では、NPOへの支援体制の構築や、協働事業を行うことを通じて、NPOならではの活躍を期待しているところです。
 当センターにおいても、これからのまちづくりには、NPOの力が大切だという認識に立ち、昨年度から、まちづくりの初動期における活動に対する助成を行う都市整備初動期活動サポート事業を始めました。また、今年度は大阪府からの受託で、大阪府とNPOとの協働事業の中間支援をしています。

地域デザイン研究会
法人設立:2000年10月17日
理事長:平峯 悠
会員数:26名
任意団体「地域デザイン研究会」会員数約150名と相互協力体制
1989年に任意団体で発足。2000年10月認証。
 主な仕事は、地域コーディネート活動。まちづくりの方向性を提案、コーディネートし、実現へ向けて動く。研究・教育啓発活動では、公開研究会を行い勉強の場を提供している。情報提供活動では、講演会、講習会、見学会を開催している。
 現在、京阪牧野駅前で、駅前広場事業で地元とともに活動、提案を行っている(助成対象事業)。メンバーは、行政、行政OB、コンサルタント、ゼネコン、企画関係、銀行関係、鉄道関係など、技術系を主とする専門家集団。

大阪・夢・まち案内人
法人設立:2002年7月15日
理事長 堂野前 忠道
会員数:110名
2002年11月認証。
 主な仕事は、まちづくり初動期のサポート活動。まちづくりの初期段階を、ボランティア的な形で手伝う。
 現在、助成対象事業である守口大日地区密集市街地の建替のほか、池田市西本町地区、池田市室町中央市場の再開発、玉出再開発等で、地元とともに活動中。
 役員は、現役の行政、行政のOB、再開発コーディネーター、商業コンサルタント、税理士、弁護士、不動産鑑定士等、13名で構成。

豊中駅前まちづくり推進協議会
設  立:1993年2月9日 市まちづくり条例に基づく「まちづくり協議会」
会  長:西川 哲生
役  員:30名
スタッフ:常勤2名
 平成7年に自分たちのまちの将来像である「豊中駅前まちづくり構想」をまとめ、条例に基づき市長に提案。平成9年には、市が構想実現化方策を検討してまとめた「豊中駅前地区のまちづくり基本方針」を作成し、協議会に提示した。現在は、協議会と行政が協働し、構想や基本方針の実現化を進めている。

 

ご出席者
ご出席・写真左から
   鎌田 徹さん  NPO法人地域デザイン研究会事務局長(行政OB・コンサルタント会社理事)
   竹中 亨さん  NPO法人大阪・夢・まち案内人事務局長(行政OB)
   澤田 範夫さん NPO法人大阪・夢・まち案内人副理事長(現役行政マン)
   田中 貢さん  NPO法人大阪・夢・まち案内人理事(現役公団職員)
   荒木 孝信さん 豊中市まちづくり支援課主査
 

NPO設立のきっかけをお聞かせください

 

鎌田 1989年に自己研鑽を目的に任意団体「地域デザイン研究会(当初は“泰山塾”)」を発足させ、まちづくりについての勉強会を重ねてきました。この成果と会員の能力・経験を生かした社会貢献活動を行うために会員有志によりNPO法人を設立しました。

竹中 昨今の経済情勢の中では今までのようにゼネコンが先行投資して地元のまちづくりを助けるという状況ではないということで、我々がボランティア的な形でまちづくりの立ち上がりをお手伝いしようと考えました。

澤田 現地では市場の空店舗がふえ、密集地は放置されたままになる、地権者は何とかしたいとまちづくり初動期に市へ相談に行くが先へと続かない。行政マンは情報を聞いてもできないことが多い。その部分でボランティア的に地元に行けないかと考えました。入口に弾みをつけるNPOをつくりたいと仕事仲間が集まりました。

田中 震災復興時、狭小宅地の共同化事業等を通して、まちづくりは『きっかけ』が一番大事だと思いました。だれか先生が来て教えるのではなく、生徒のだれかがチャレンジして経験したことを周辺が学ぶという構造をうまく仕掛けられたらいいのにというのが、NPO参加のきっかけです。

荒木 昭和62、3年ごろに、商売に危機感を抱いた駅前の若手商業者が市に相談。そのとき、市の職員も手弁当で地域に入り、商業者と一緒に共同勉強会を8カ月間行い、商業の話だけでなく、まちの歴史から、住宅地の移り変わり、バスの流れ、駅前利用者の動きなど、総合的なデータをとって自分たちのまちを検証し、まちづくりビジョンの素案をまとめました。活動がまずあって、後から平成4年に条例がつくられました。まちづくり条例では、初動期支援として、アドバイザーの派遣、活動費助成などの支援施策を用意しています。

鎌田 徹さん
行政にも地元にも属さず、客観的にまちの将来像を提案できます

鎌田

 
澤田 範夫さん
まちづくりの入口に弾みをつけるようなNPOをつくりたい 

澤田

まちづくり、
NPOだからできること
NPOでなければできないこと

荒木 孝信さん
地域のまちづくりを進める総合調整的な役割を果たしています

荒木

荒木 まちづくり協議会はNPO法人ではないのですが、地域のまちづくりを進める総合調整的な役割を果たしています。協議会には、地元団体の長が役員になっていて、自治会・商業団体などの既存組織をはじめ、市民活動団体やNPOなどのコーディネーターの役割をしています。

澤田 行政の肩書きで地元に入ると、府は何をしてくれますか、市は何をしてくれますかという話になります。民間が行くと、もうけのために来たという目で見られます。NPOはすんなり受けいれていただけます。ボランティア感覚でしたが、「お金も要るでしょう」と逆に相手からいわれたりします。NPOは、行政でも民間でもないですから、言いたいことは言わせてもらい、我々の意見を権利者なり地権者に十分に伝えながら話を進めています。 
 我々の特性は、専門家としての最新の制度についての知識や広いネットワークを持っていることで、それらを活用して活動しています。

竹中 今回も地元へ入ると、「大変でんな」「ボランティアでやってくれはって、私らのために」と、最初にそういう言葉を聞きました。行政も何とかしたいが出ていくとおんぶに抱っこになる可能性があるため、事業の不確定な段階では入りにくい。権利者の皆さんはプロジェクトをつくって1年間進めてきて手助けをほしいと思っている。その段階で、NPOが本音の話も含めて入っていく。事業の採算だけでなく、地域の身の丈に合ったまちづくりをする。経済的なバランスも含め、将来を考えた中で本音の話し合いができるので、行政より踏み込んだ提案を行えると思います。

鎌田 行政では事業を進めるのは、担当セクションだけです。たとえば、駅前広場事業は道路担当課が担当するので、再開発や面整備のところはできないという。駅前全体を考えられない縦割り行政の弊害です。NPOの利点は、駅前全体をどうするかというトータルな考え方で提案できることです。また、行政対地元では対立・要求型になりがちですが、NPOだと、そのどちらにも属さず、客観的にまちの将来像を提案できます。

田中 震災をきっかけにボランティア元年みたいな話がありましたですね。それを見ていますと、公の世界と私という世界との間に『共』と書くコモンという世界があり、NPOはコモンに位置していると思います。コモンの世界が豊かにならないと、次の世界が見えないのではないかと思います。社会全体の意識が徐々に変わる、社会の価値観が変わる近道と感じています。


 長時間にわたり貴重なお話を伺う中で、まちづくりにおけるNPOの可能性を感じました。特に、なかなか事業の進まない既成市街地の再編整備などの初動期には、NPOならではの新しい角度でのアプローチに期待が膨らみます。センターの初動期活動サポート事業は事業費のない中で役に立った、NPOの活動の立ち上がりの助けになったとの言葉をいただきました。今後とも、行政、センター、NPO、それぞれの立場で協働しながらまちづくりを進めていける体制を整えていくことが重要ではないでしょうか。
 
竹中 亨さん
地域の身の丈に合ったまちづくりを提案していきたい

竹中

 
田中 貢さん
公と私のあいだ「共」にNPOは位置しています 

田中


都市整備初動期活動サポート事業

NPOによるまちづくりの新しいあり方を具現していく活力を感じる座談会でした。興味深いお話をありがとうございました。

インタビューアー
  岩井 珠惠