まちづくり見聞録
視察記
いま彦根のまちは
夢京橋キャッスルロード 京橋からキャッスルロードをみる
 いま彦根の町の変身振りは面白い。マイカーなら日帰り圏と車を走らせた。
甲冑・武具を朱塗りに揃え、勇猛果敢に攻め立てる甲斐の井伊軍団は、徳川四天王の一つだった。
 関ヶ原合戦に勝利した家康は、敵将石田三成の佐和山城や秀吉が開いた楽市楽座の長浜など、豊臣残党のお目付けにも彦根築城を急いだ。湖岸扇状地の小山を中心に三重の濠を巡らした。そして内濠の内には天守閣や居城を、中濠の内には家老屋敷と練兵場を、今は埋め立てられた外環状道路の外濠までを武士や武具職人の住居と生活物資調達市場に、そして濠の外側に足軽屋敷と防衛を固め、芹川を南に付け替えた。四神相応の風水思想を強く受けた縦横十文字の街路網でできているが、交差点は見通せないようにずらされていた。
 車社会の現代は温故知新の精神文化を継承したまちづくりが求められている。
 夢京橋キャッスルロード 
 彦根ルネッサンス
 
 
 中濠にかかる本町正面の京橋から、外環状道路までの350mの旧商店街は、広い車道とゆったりしたケヤキ並木の歩道に改修されている。沿道は黒格子の2階建商店街に統一されて、Old New Townの洒落たゆったりした雰囲気がある。全国街路コンクール会長賞、まちづくり月間大臣賞を受けたと伺った。この改修は住民にとっても、行政にとっても多くの難題を克服したことだろう。
 車社会の到来に、市は将来構想をまとめて公表公開した。そして旧街路の再改築とまちづくりを熱心に呼びかけた。地権者もよく理解をしてくれて、全員参加の本町まちなみ検討委員会が設置され、連日連夜集まっては都市計画や建築法令の勉強会が開かれた。地権者の一人だった小児科医が奉仕の気持ちから事務所を提供してくれた。資金・税金・建築構造の解決に、専門家と個々の住民とが、本音で話し合いが進められた。
 市・地元代表者・学識経験者によるまちなみ検討委員会や、地権者による推進懇談会も生まれ、数年がかりで熱い議論が戦わされた結果、最終的には円満に都市計画決定の運びとなった。さらに住民本位での地区計画から修景基準などなどがまとめられた。
 それらの内容は建築外観の様式、材料、色彩、広告の出し方などなど、みんなで創り守ることで、この素晴らしい街並みに変身した。既存の三階建ても景観のために自主的に屋根を切り取ることにまでの協力を惜しまなかった。
 市も植栽、舗装、照明、ベンチ、ポケットパーク、公衆トイレで協力した。沿道の露天駐車場も建物と同じ黒塀で囲んだ。百聞よりは一見を。訪れて歩いてゆっくりとご覧下さい。ついでに彦根名産の鮎、鮒すし、近江牛を三成家臣の島左近銘柄の地酒とともにご賞味あれ。
 四番町スクエア 賑わい拠点に変身中
 
 
 まちの基本は街路網の整備と、地区の活性化と思う。キャッスルロードから奥まったところに職住一体の旧市場商店地区があった。ご多分にもれず地震や火事に弱い木造密集地だった。昭和57年(1982年)に市街地再開発事業の基本構想がまとまり、事業への話し合いが進められた。過小宅地や零細借家人の協力が不可欠である。長引く話し合いの間に不景気という大波に飲まれてしまった。
 「街づくりは夢づくり 街づくりは人づくり」の理念に燃える若手商店主たちが再生を期して立ち上がった。平成8年2月(1996年)のことである。「檄の会」という。明治大正の擬洋風建築の技術と伝統を引き継いで、Traditional and Futureを標語に賑わいと憩い住むまちへと。土地区画整理事業によって道路網を再整備し、スクエア広場に面した商店群や、お客と道の両側商店の売り子たちが、肌でふれあうバザール通路で回遊してもらえるような地域づくりを目指している。
彩色紙模型    実際の建築物
 滋賀大教授の細かい指導のもとに建築家の卵が丁寧に作った建築の立体模型が、地図の上に配置されている。地権者はそれを前に議論を戦わす。紙模型を彩色模型に入れ替えて話の精度をあげていく。この方法は自分の課題ばかりか、全体の流れもよく理解できて事業参画もしやすい。新しい客を呼び込むために美術館計画も加えられている。
 といっても個人的な課題も多い。そこで組合も各種の会を立ち上げた。街並み統一の景観デザイン、福祉、テナントオーナーの貸店舗希望者の会、ガレリア大正ロマンを追求するハイカラ倶楽部、建築支援のファサード会、それらを四番町タイムズで情報提供公開などなどと。
 現場を廻った。更地や建築中のところでは数店をまとめてポンテリカと大書見出しの彩色大看板が目立った。「ポンテって? 英語では川の両岸を結ぶ橋や、心と心を繋ぐ橋渡しはブリッジ。パリのポンテヌフ橋やヴェニスのポンテヴィッキオ橋は有名橋……」しばらく意味を考え込んだ。横書きカタカナ文字を右から左へ読んだだけかな。遊び心が滲んでいる。
 彦根城内の博物館の展示にも歴史と文化を感じさせた。今日は名神高速道路の大改装中。帰路はどのくらいの時間がかかるだろうか。名残は尽きないがと駐車場に引き返した。話題に出た銀座通りのスラローム白線引き、花菖蒲街、仏壇街、大手通りなどは車中から。調べていったことを全部見るには短すぎる1日でした。またの機会に再訪を。
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