街かどウオッチングロゴ

鴨川と
基盤施設のデザイン

京都大学大学院 川崎 雅史教授 
鴨川の緩傾斜広場と飛び石(出町柳)
鴨川の緩傾斜広場と飛び石(出町柳)

 京都の暑い夏に鴨川を歩くと伝統的な納涼床の風景が見られる。鴨川の河川敷を流れる小さなみそそぎ川の上に組み立てられた仮設の床の上で人々は清涼と水辺と東山の景色を楽しむ。近世の絵図を見ると、川の中の砂州に数多くの床机を並べて飲食を楽しみ、寛文(1661〜1673)の河川改修で石積みの護岸ができた当時から、高床式の納涼床も現れた。歌舞伎や芝居小屋も並んで川は都市の遊興の場所であったのであろう。明治の近代化以降、都市化が進む中で治水を目的とした一連の河川改修により多くの中洲が取り除かれ、大正期には流れの速くなった河道内には、床机の床が禁止されることになった。木屋町、先斗町の店々は、「夏の納涼床下に清水を通ずるなどの設備されたし」と京都府に陳情した結果、高水敷の河岸の建物のすぐ脇にみそそぎ川が開削されることになった。大正期の治水を目的とした改修の中で生まれたこの川は、ハイブリッドな機能を持っている。すなわち、鴨川の余剰水排除といった治水機能、高瀬川への水の安定供給の利水機能をもち、そして何よりも納涼床の風景を存続させ都市アメニティの機能をもつことである。小さな水路ではあるが、河川のもつ本来的な治水や利水の機能と景観のアメニティ機能が両立している稀少な基盤施設である。
 鴨川を北へ上がっていくと出町柳に至るが、ここは高野川、賀茂川の合流点である。二つの川がスムーズに合流するための緩衝帯である導流堤は、水辺に人を導く広い空間となって、ここから緑豊かな下鴨神社の森と比叡山の風景を見ることができる。川底を守る機能をもつ飛び石を渡って向こう岸に渡ることができ、緩傾斜の芝生広場も広がって、夏も人々の憩いの場所となっている。この水辺の空間を取り囲むのが橋梁であり、景観の印象に大きな印象を与えている。今出川通りに架かる賀茂大橋は鴨川に架かる橋ではもっとも長い橋であるが、上部は伝統的な石造りの高欄で、灯籠の照明もついて神社仏閣を思わせる。下部は、ゲルバーの鋼桁橋であり桁高はアーチのような曲線を描いており、現代的な橋梁の様子を伝える。京都の橋は、新しいものでも神社仏閣風の石造りの高欄や擬宝珠をもつ橋が数多いが、どうもこの上部と下部のデザインの違いが、川の広場に立って見ると橋の全体形がアンバランスとなって映る。構造物のもつ本来的な形態美より、歴史的なコンセプトが勝ってしまうことが起因しているのかもしれない。しかし、下鴨神社側に架かる河合橋は、同様の石造りの欄干と鋼の組み合わせでも全体のバランスを保っている。大正期の建築家武田吾一の作品であるが、上部の欄干の垂直線と下部の張り出しのブラケットの線がそろい、上部と下部の垂直線に関連が見られ、連続的なリズム感が感じられる。水辺の風景は、このような基盤施設のデザインの質によって、大きく左右されると思われる。

みそそぎ川と納涼床
河合橋(武田吾一設計 昭和13年)
みそそぎ川と納涼床
河合橋(武田吾一設計 昭和13年)

back next