街かどウォッチング
「Good Place」について
大阪大学教授 鳴海邦碩

 昨年の3月、大阪で、「都市のリ・デザイン/行ってみたい都市の形成」というテーマで、国際シンポジウムが行われた。筆者を中心として企画を行い、基調講演者としてレイ・オルデンブルグ教授をアメリカから招いた。O教授は都市社会学者で、「第三の空間」とか「good place」に着目した著作で知られている。

Good Place(バー)
Good Place(バー)


 「第三の空間」とは、「第一の空間:家庭」、「第二の空間:職場」のしがらみから開放された個としての空間と位置づけることができる。O教授は、この「第三の空間」が都市の魅力を生み出すとして、「カフェ」などに着目している。O教授の言葉を借りれば、「カフェは、社会的な付き合いの場所として、地元の人々を統合し、新しい人を受け入れる」役割を果たしてきたのである。


 こうした「カフェ」のような場所を、教授は「good place」と呼んでいる。「good place」として、O教授は他に、バーや喫茶店、本屋、美容院などをあげている。地域社会における人びとの行きつけの所、溜まり場である。

 なぜ「カフェ」が面白いのか。O教授いわく、カフェ・ソサエティーに集まる人が面白いのだ。客が互いにエンタテーナーになっており、そうしたキャラクターは人と時間を過ごす過程で生まれるものと見ている。

 しかし、現代の中産階級の人たちは引っ込み思案でクールになりつつあり、そうした人ばかりが店に座っていても何の魅力もない。中産階級は全世界的に面白くない人になってしまった。そして、門で閉じられた住宅地に住み、家庭内での楽しみを大事にし、時々テーマパークに遊びに行く。O教授は、こうした「good place」が衰退傾向にある現実を随所に見いだし、アメリカ社会の変化に危惧を抱いている。

Good Place (書店)

Good Place(書店)
Ray Oldenburg著 
“The Great Good Place”の
表紙より転載
 

 日本ではどうだろうか。すぐ連想できるのが赤ちょうちんである。銭湯や床屋さんもそうだったと思う。しかし、日本でも、こうした「good place」は随分少なくなった。

 最近、「ふれあい喫茶」が各地で増えつつある。昨年、大阪市の「都島区まちづくり学習会」で「ふれあいマップづくり」が試みられた。あるグループが「ふれあい喫茶」に着目し、その分布図を作ったのである。この地図をみると、思わぬところに子供からお年寄りまで楽しめる「ふれあい喫茶」があり、新しい日本の街の「good place」の誕生かと期待がもたれる。

大阪市都島区 喫茶アイアイ
大阪市都島区 喫茶アイアイ(西都島福祉会館2階)
撮影 山本一馬

 今の日本の街に必要なのは、新しい身近な交流の空間を、商売として発明することではないだろうか。新しい近隣の溜まり場といえば、「コンビニ」が思い浮かぶ。今のままのコンビニでは少し寂しいが、新しいスタイルのコンビニとヨーロッパの街角にあるようなバールとを重ね合わせると面白い空間イメージが生まれる。

back next